スカルパ空間論_1 : 研究の経緯

「カルロ・スカルパによる建築作品に見られる空間変移のデザインに関する研究」は、木内俊彦の博士論文(2013年12月)です。

筆者(木内俊彦)は、カルロ・スカルパ(1906-78)の建築作品に関する研究を、岸田省吾研究室(東京大学建築学専攻 1992-2012)に助手として所属していた2005年から始めました。当時の学生が卒業論文でスカルパ作品を題材にしたことから議論を行なううち(*1)、そこには簡単に語ることのできない問題が潜んでいると感じ、講義などの機会を利用して研究を継続しました(*2)。本論文の結論を一言で述べると、『スカルパ建築においては「時間」がデザインされている』ということなのですが、この「時間がデザインされる」というアイディアも、2006年頃から岸田研究室で行なっていた「時間論研究会」がきっかけとなっています。このように、本研究は筆者独自の研究というより、岸田省吾先生をはじめとする旧岸田研究室メンバーとの議論のなかから生まれたものですが、これを発表するにあたっての責任はもちろんすべて筆者にあるものです。

論文をまとめるにあたっては、岸田省吾先生の他、同じく東京大学の大野秀敏先生、加藤道夫先生、千葉学先生、そして東京藝術大学の北河原温先生に審査をしていただき、大変貴重なご意見を頂戴しました。また2010年度に学術振興会「組織的な若手派遣研究者等海外派遣プログラム」を利用して現地調査を行なった際には、ヴェネツィア建築大学のフランチェスコ・ダル・コォ教授に便宜をはかっていただくなど大変お世話になりました。先生方のご厚意に、この場を借りて感謝申し上げます。

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*1 大野友資「カルロ・スカルパ作品研究 嵌合する境界」東京大学工学部建築学科卒業論文、2006年。大野と木内を含めて、岸田研究室からは計5本のスカルパに関する論文が書かれている(他に、浜崎1993卒論、中山1996卒論、末光2001修論)。

*2 2007年、2009年、2011年の大学院講義(岸田省吾、建築設計学第3)の他、武蔵野美術大学で年1回担当した「形態論」の講義でスカルパ作品について論じた。木内俊彦「共存する境界 カルロ・スカルパの作品から見えてくるもの」『建築の「かたち」と「デザイン」』鹿島出版会、2009年、87-98頁。

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– スカルパ空間論_0 : WEB公開資料
– スカルパ空間論_1 : 研究の経緯
– スカルパ空間論_2 : WEB公開の目的・スカルパの「凄さ」
– スカルパ空間論_3 : 空間変移とは何か・空間変移パターンの二系列《群と穴》
– スカルパ空間論_4 : 「時間がデザインできる」根拠(試論)